「菊姫 吟」を飲んだ

f:id:funnelbit:20141221135318j:plain

 菊姫の吟は高い。720mlで一万円する。そのため、お金持ちか、祝い事ぐらいでしか購入するのは難しい。高いので飲み屋でもほとんど置いていない。
 僕はお金持ちではないから、いつも酒屋のショーケースから眺めていたのだけれど、今回祝い事が発生したのでここぞとばかりに購入した。

 吟は純米吟醸ではなくて、吟醸酒。すなわち、アルコールが添加されている。僕はアルコール添加されてる酒が少々苦手であるのでそこが気がかりだった。勿論アルコール添加されてるから不味いというのは全くの間違いで、アルコール添加されていて、美味しい酒は山ほどある。ただ、どうしてもクチを流れた後の最後の最後でアルコール成分がググッと顔を出すのは未だに違和感を覚えてしまう。

 さて、開封してまず気がつくのはその香り高さ。この酒は「吟醸酒」である。吟醸酒であるから、大吟醸ではない。しかしこの香りはもはや大吟醸そのものの香りとしか思えない。これは凄まじいことで、つまり「大吟醸」というものは米を50%削って香りを出しているものであるから、その分雑味は減るが旨味も減る。ところが「吟」は吟醸酒レベルで大吟醸のそれと同じ香りを湧き立たせている。手っ取り早く大吟醸にしてしまわない辺りに、蔵の並々ならぬこだわりを感じざるを得ない。

 アルコール添加+吟醸ということなので、素直に冷で飲んでみる。口に入れたその瞬間は、ただただ清涼とした酒質を思わせる。だがその次に旨味が舌の上にやってくる。味わい的には而今十四代のようなものに似ているが、研ぎ澄まされていて美しい味わいである。
 またこれまで飲んだ綺麗さをウリにした酒よりも旨味が多い。さらに香りが口いっぱいに広がって、思わずうなるような味わいを楽しませてくれる。
 
 この味わいは、じっくりと味わうのに適している。大抵のこういう酒はスイスイ飲んでしまうのだけれど、「吟」においては無理せずともゆっくり飲めるきれいな吟醸酒、というものであると感じる。

 アルコール添加なので最後はよく切れる。香りも味わいも全てスッと無くなって、すぐさま先ほどの味わいを思い出したくなる。そうして1杯、また1杯と飲んでいくうちに、気がつけば瓶が空になっている。先程も述べたとおり、僕はアル添が好みではないが、この場合はアル添されていてよかったと感じる。もしされていなければ、パンチが弱くなって少し不満になるだろう。

 総評としては「よくぞここまできれいな酒で、これだけの味わいが出せたなあ」というもので、この丁寧な作りには、蔵元のこだわりやプライドを感じる。